フィルムで写真を撮ってみませんか。

「フィルムを使う写真に興味を持つ人を一人でも増やす」ことが目標の一個人の活動

カメラの話(コラム第三回-2)カメラと、私。(オートフォーカスカメラが欲しい)

 さて。

 

 高校三年生の春でした。カメラ雑誌に、「写真甲子園」というものがあるとの記事がありました。私は化学部で、写真部にも属していなかったので、すぐに写真部の顧問のところに行き、「写真甲子園」に出たいから入部したいと申し出ました。その写真部の顧問は、その時が初めて話をした、確か、国語の教師でした。あまり良い感じはせず、写真甲子園に応募をしたいという志を持つ部員もいませんでした。

 しかし、写真甲子園は高校単位で応募をするもので、個人での応募は認められていませんでした。そこで、急遽、写真部とは別に「写真同好会」を他に2名の友人を集めて立ち上げました。その「写真同好会」で、「写真甲子園」に応募することとしたのです。顧問は、化学部の顧問にお願いしたところ、条件が一つ出されました。それは、「化学の要素を含むこと」でした。

 

 フィルム写真の原理は銀の酸化によるものです。行きついたのは、青写真(日光写真)の原理でした。自分たちで作った印画紙に、写真を焼き付けようとしたのです。

 化学部の試薬を使い、印画紙の製作はできました。幸い、化学部には暗室があり、そこにはいつのかわからない焼き付け機もありました。自作印画紙の素材は、液体がしみこみやすい画用紙が最も相性が良かったのですが、フィルムを露光する時間は数時間かかりました。何個も、焼き付けの球が切れました。そこで、ネガフィルムをOHPフィルムにコピーで焼き付け、さらに拡大し、それを青写真印画紙へ張り付け、日向へ数分放置する、という乱暴な手法を取らざるを得ませんでした。

 その結果、できた写真はぼんやりとした、不鮮明なものでした。

 

 その作業と並行して、写真同好会を写真部とは別途立ち上げたことをどこからか聞きつけた、ラグビー部の顧問が、ラグビー部の客員マネージャーとして、部の写真を撮らないかと誘ってくれました。その年の写真甲子園の課題は「青春」。ラグビーのルールも知らないまま、二つ返事で引き受けました。

 カメラは、ニコンF3。持っているレンズは、標準レンズの50mmF1.4と35-70mmのズームレンズ。さらには、選手の行動パターンもわからない。コートの外から撮ると、人の表情どころか、顔の判別すら難しい状況でした。動く人の写真を撮るためには、オートフォーカスカメラが必要だ。それまでのお年玉や小遣いの残りをかき集めました。

 当初、候補に挙がったのはキヤノンEOS5(もちろんデジタルではない)でした。5つのオートフォーカスポイントがあり、それも、目で見たところにピントがあるという、当時の高校生にとってはメチャ先進的に思えるものでした。しかも、新品で7万円くらいで買え、手が届く範囲でした。しかし、レンズの共用をするほうが良いと、父や兄から、ニコンを選ぶこととなりました。ちょうどニコンF5が発売されたところではあったものの、本体定価32万5千円は天文学的な金額であり、F90XSとF70Dで悩んだ結果、無理をしてF90XSを購入しました。レンズは、トキナー製28-70mmF2.8と80-200mmF2.8、さらに×2のテレコンバーターを購入しました。た。

film-camera-challenge.hatenablog.com

 実際ラグビー部の練習や練習試合に付き合ったのは2か月程度でした。必死で、撮影しました。一緒に写真同好会を立ち上げた友人2名は、写真には全く無関心でした。本戦に進めれば北海道に行ける、ということにのみ、魅力を感じていたようで、写真を撮るのは私のみでした。

 F90XSは、ワイドフォーカスエリアで、ある程度の範囲にピントを合わせることはできたものの、当然ながらフルオートで写真を撮れるものではありませんでした。秒間4コマ以上の連写が可能とはいえ、36枚撮りフィルムを10秒足らずで撮りきる勇気はありませんでした。動きがわからないスポーツを、一瞬必殺のシャッターで切り取る。どだい、無理な話でした。オートフォーカスという機能は、私の腕の悪さやスポーツの知識不足をカバーできるだけのものではなかったのです。

 自作印画紙の高感度化は困難を極め、結局は通常の写真焼き付けで応募することを顧問も許してくれました。どうにか組み写真を作成、選定し、応募しました。結果は、予選敗退でした。

 

 半年あまり先に高校を卒業し、大学へ進学しました。大学に進学してからは、F3が再びメインのカメラとなりました。F90XSは、動きものを撮る時に持ち出してはいたものの、ほとんど持ち出す機会はなくなりました。それでも、このカメラは、私の高校時代の一瞬を輝かせてくれた名機として、今も手元にあります。